上原記念生命科学財団 上原賞受賞

受賞対象となった研究業績

新たなストレスシグナル機構の発見から創薬基盤形成へ
生体の恒常性維持に関わる細胞生物学的ストレス(酸化ストレス、浸透圧ストレス、小胞体ストレス等)の受容・認識の鍵となるオリジナルな分子群に焦点を当て、ストレス受容から細胞応答に至る一連のシグナル伝達機構の解明に基づく新しい創薬基盤形成に貢献した。ストレス応答性MAPキナーゼの最上流に位置するASK1遺伝子を発見し、さらにチオレドキシンとの複合体として機能することを明らかにした。この発見はシステイン酸化による分子間相互作用によるシグナルのON/OFFという、酸化ストレスシグナルにおける普遍的なメカニズムを世界で初めて提唱したものである。また、浸透圧応答を可能にするASK3の機能解析やSOD1-Derlin-1相互作用による小胞体ストレス応答、ミトコンドリアストレスセンサーとしてのPGAM5の切断機構の解析など、細胞のストレス応答に関与する鍵分子の同定と先駆的解析を行った独創的な研究業績である。

受賞者氏名(写真左)

小川 誠司(オガワ セイシ)医学博士(共同受賞)

所属機関および役職

京都大学大学院医学研究科教授

受賞対象となった研究業績

先端ゲノミクスによる癌の分子基盤の解明
小川誠司博士(腫瘍生物学)、宮野悟博士(情報科学)は、長年にわたる共同研究を通じて、広範ながん種における網羅的なシーケンス解析によるがんのゲノム・エピゲノム異常の全容解明に大きく貢献した。骨髄異形成症候群における体細胞変異の研究では、全エクソン解析によるRNAスプライシング因子の体細胞変異の同定を通じて変異スプライシング因子によるRNAスプライシングの異常がヒト発がんに関与することを初めて明らかにした。続いて、SETBP1変異やCohesin複合体変異、CTCF変異等、慢性骨髄系腫瘍の主要な遺伝子異常を次々に解明する一方、腎淡明細胞癌や低悪性度脳腫瘍、末梢T細胞リンパ腫、成人T細胞白血病など、広範ながん種について、その発症に関わる遺伝子異常の全体像とこれらの変異に基づく発がんの分子メカニズム解明において画期的な研究成果を挙げた。一連の成果は、大量シーケンス技術に代表される先端ゲノミクスとコンピュータサイエンス・情報サイエンスを融合した、癌研究における次世代の方向性を示した先進的な研究業績である。

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